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特殊健診時の注意点―スチレン(モノマー)(進行中)

ポリスチレン(PS、スチロール樹脂)は、スーパーで見かける魚、肉等の食品用トレー、コンビニ弁当容器、おでん等のテイクアウト用容器、カップ麺容器、梱包用緩衝材、CD入れ、プラモデル等々に使われ日常生活になくてはならないものとなっています。発砲スチロールというのは、細かい気泡がいっぱい中に入っているポリスチレン製品で、細かい気泡を入れることで、軽く、衝撃に強く、熱が逃げくく(保温性アップ)しています。
特殊健診で対象となるのは、ポリスチレンではなく、ポリスチレンを作る原料であるスチレンモノマーの方です。  スチレンモノマーを下図のようにつなぎ合わせてポリスチレンが出来上がります。

スチレンモノマー&ポリスチレン構造式 by 無料ソフトChemSketch

スチレンモノマー&ポリスチレン構造式 by 無料ソフトChemSketch

下図に、スチレンモノマーが体内でどのように変化してマンデル酸になるかを示しています。尿中マンデル酸濃度を測定するのがスチレンモノマーに対する特殊健診項目になります(尿蛋白も見ます)。

スチレンモノマーの体内代謝

スチレンモノマーの体内代謝

スチレンモノマーの毒性は、マンデル酸に変化する前のスチレンオキシドが神経に悪さをすることによります。ポリスチレンからスチレンオキシドが生成することはないので、スチレンモノマーよりはるかに安全だと言えます。ただし、ポリスチレンの中に微量ながら未反応のスチレンモノマーが残っていることも確かです。体には悪さしないほど微量だという分析結果になっています。実は天然にもスチレンモノマーは存在します。シナモンやイチゴ等の果物等さまざま食物にも微量ながらスチレンモノマーが含まれています。体に悪いものを食べても、体はそれを無毒化して排泄することができます。無毒化が追いつかないほどの量を食べ、体に蓄積することで悪さを発揮するようになります。ということで、スチレンモノマーを仕事で扱っていない一般の方でも、尿中にマンデル酸は排泄されています。一応マンデル酸の評価が下表のようになりますが、トルエンの時同様あまりあてにならない検査です。

分布1分布2分布3
スチレンモノマーマンデル酸(g/L)≦0.30.3<&≦11<

・常日頃の作業環境管理・・・適切な排気および保護具着用
・健診時医師問診・・・適切な自覚症状の確認(ちゃんとやっているの?と思うことがあります)

が大切です。

作業環境管理が適切に行われ、自覚症状もないようでしたら、以下のことが原因と思われます。

・水分をあまり取っていないと、尿量が少なくなり、相対的にマンデル酸濃度が上昇。
・お酒の飲み過ぎ・・・アルコールの解毒とスチレンモノマーの解毒は肝臓で行われています
酒量が多いとスチレンモノマーの解毒が遅くなります。

トルエン構造式

特殊健診時の注意点―トルエン

トルエンは体内に吸収されると、下図のようにベンジルアルコール、ベンズアルデヒド、安息香酸、馬尿酸を経て、尿中に排泄されます。従って、トルエンに曝露されていなくてもベンジルアルコール、ベンズアルデヒド、安息香酸を摂取することで、尿中馬尿酸濃度が上昇する可能性があります。

トルエンの体内代謝 

トルエンの体内代謝

ベンジルアルコール、ベンズアルデヒド、安息香酸を含むものには下記のような食品、食品添加物、薬があります。

含有する食品等
ベンジルアルコール香料(ジャスミン)等
ベンズアルデヒド香料(ビターアーモンド)、梅、あんず、すもも等
安息香酸防腐剤(キャビア、マーガリン、清涼飲料水、栄養ドリンク、シロップ、醤油、菓子製造に用いる果汁・果汁ペースト等に添加)、チーズ、朝鮮人参、柑橘類、鎮痛剤等

(参考)牛乳などの生乳には馬尿酸が含まれています。チーズ製造時に微生物の働きにより馬尿酸から安息香酸が生成します。

(参考)牛乳などの生乳には馬尿酸が含まれています。チーズ製造時に微生物の働きにより馬尿酸から安息香酸が生成します。

ということで、尿中馬尿酸検査はあまり当てにならない検査です。

尿中馬尿酸の値は下記のように一応評価されます。

分布1は、適正な採尿(トルエン取扱作業終了後に採尿)及び作業環境管理(管理濃度20ppm以下を維持し適正な保護具着用)を行っていることを前提として、トルエンの体内吸収は極めて少なく、健康に影響を及ぼさないレベルであることを意味します。

分布2は、直ちに健康への影響が出る値ではありませんが、ある程度の曝露があった可能性があり、作業環境管理の見直しが必要です。

分布3は、トルエンの曝露による結果だとすると、このままの状態が続くと健康影響への危険性が高くなるため、直ちに抜本的な作業環境管理の見直しが必要となります。

分布1分布2分布3
トルエン尿中馬尿酸 (g/L)1≦1<&≦2.52.5<

健診時に注意して頂きたいことは、

十分水分を摂取しておくこと

水分不足で尿が濃くなっている場合は、馬尿酸の濃度も上昇しています。

べンジルアルコール、ベンズアルデヒド、安息香酸を含有するもの及び牛乳の摂 取を前日より控えること

前日の飲酒を控えること

です。上記のことを注意して頂き、作業環境管理にも問題ない場合は原因として体質が考えられます。その場合は尿中のトルエンそのものを測ることが有効です。尿中馬尿酸は高いが、尿中トルエンは基準値0.06mg/L以下でしたら、尿中馬尿酸高値は体質によるもので作業中トルエンには曝露されていないと考えられます。